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相続連続小説「あいつづく」 【第6話】

2016/6/16 

相続連続小説「あいつづく」

夏子ヘミング
【第6話】
寄与分の主張は裁判ではほとんど認められない―――。角田の言葉に一瞬静まり返ったが、角田は力強い声でにこやかにいった。

「ここは裁判所ではなく、あくまでも遺産分割協議という話し合いの場です。義父の昭三さんの長年の介護の結果、うつ病になられ、それでもサヨさんの介護をされていました。孝子さんはうつ病を患いながら介護されるということは並大抵のことではなかったはずです。その労に感謝する形で光男さんに一定の寄与分を認めてはいかがでしょうか」

光男は思いがけない角田の提案に角田を見た。角田は光男だけにそっと目配せをした。サヨの遺品の中にあった角田の発行する事務所のニュースレターには「介護損をなくしたい」と書かれた記事を目にしたことがある。孝子の介護をなんとか認めようとしてくれているのだ。光男の胸は熱くなった。

黙って話を聞いていた達郎は組んでいた腕を組み変えながら「父さんも母さんも光男たちにまかせっきりだったら、ある程度の寄与分を認めることに依存はないよ」といった。柔らかい表情だった。美津子は達郎の言葉に驚いた様子で慌てていった。

「わたしだって孝子さんが世話をしてくれたこと、感謝していないわけじゃないわ。でも、寄与分を認めるっていっても、一体いくらくらいなのか、さっぱり検討がつかない。一体いくらくらい認めろというの」

美津子の言葉を聞いて、角田は頷いた。

「そうですね、ご家族の方のされた介護を金額にすることは実際とても難しいことですが、仮に一日五千円として二年間で三百六十五万円。実際には孝子さんが専門の介護士ではないことや初期の頃は日常的な介護で十分であったであろうと予測されるので三百万円というのが金額ではないかとわたしは考えています」

美津子はまだ何か言おうとしたが、言葉にならずにいる間に達郎が

「それでいいと思います」

と認めた。

「兄さん!」

美津子は悲鳴に近い声を上げたが、

「お前だって孝子さんにまかせっきりだったじゃないか。ここは認めようじゃないか」

img21690「ただ・・・・」


と制した。

と達郎は続けた。

「聡が高校の時に留学したり、都内の私大の入学金や授業料は全部父さんや母さんが出してたって聞いたけど」

祖師谷の実家で起きていることにはあまり関心のないと思っていた兄の達郎の口から光男の子聡の学費のことが出てきて、光男はドキリとした。

「その金はこの際、キッチリ返して欲しいと思っているんだ」

今度は長男の達郎からの攻撃を受ける番だった。


≪第7話に続く≫




【登場人物】
繁田さよ(故人)・・・達郎達の実母。和裁士として70まで現役だったが、認知症を発病してから亡くなるまでグループホームで暮らす。
繁田達郎(繁田家の長男)・・・繁田家の長男だが、東京で外資系証券会社に勤務し、華やかな生活を送っている。多忙のあまり最近は盆や正月にも顔を出していなかった。
繁田恭子(達郎の妻)・・・元客室乗務員。美人だがプライドが高く、義母さよに料理の味付けを注意されてから繁田家にはまったく顔を出さなくなった。
西岡美津子(繁田家の長女)・・・裕福な家へ嫁いだが、義理の家との折り合いが悪く、度重なる夫の浮気に耐えかねて離婚。母思いの一面も見せるが、大変な時は何かと都合をつけていなくなる、調子のいい長女。
繁田光男(繁田家の次男)・・・大手メーカーに勤める。兄の昭三とは正反対の、堅実で性格。
繁田孝子(光男の妻)・・・もともとは明るい性格だったが、厳格な義父と暮らすうち、うつ病を発病。現在は普通の生活を送っているがやせ細り五十代とは思えぬ容姿になってしまった。






 


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