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相続連続小説「あいつづく」 【第8話】

2016/8/16 

相続連続小説「あいつづく」

夏子ヘミング
【第8話】
美津子が取り出したのはサヨの通帳だった。

「いつの間に・・・?」

驚く光男に美津子は悪びれる様子もなく応える。

「この間祖師谷の家に立ち寄った時に、ね。一応、孝子さんには断ったわよ」

この間、とは形見分けをしたいといって実家にやってきた時だ。実妹ながら抜け目のない奴だとため息が出た。

「ねぇ、このディーラーに払い込んでいるお金はお兄さんの車でしょ? そんなものまで母さんに払わせていたわけ」

美津子が指で示した場所にT自動車販売店への三百万近い入金が印字してある。

「それは・・・」

光男は言い淀む。美津子はそんな兄を睨みつけ返答を待つ。

「・・・母さんが病院通いした時に、車が必要だからと買ってくれたんだ」
「そう、それならこれは」

地元のK工務店への入金が百万程度。

「二〇一一年の大震災の後、実家の耐震工事したほうがいいということになってした工事代金だ」

美津子から通帳を受け取った角田は神妙な顔で通帳を確認した。

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「特別受益といえるためには、『生計の資本としての贈与を受けた場合』とされています。金額が少額で被相続人の資産および生活状況に照らして直系血族間の扶養の一部と認められる場合には、扶養義務の範囲内として特別受益には該当しないとされています。車や耐震工事は介助のためや耐震のためですが、年金暮らしのサヨさんにとって金額が少額とは言えませんから、扶養義務の範囲内というのは難しいかもしれません。もっともサヨさんが特別受益による持戻を望んでおられなかった場合には、特別受益があっても持戻を行わずに遺産分割を行うことが許されます」

 門田の言葉を聞いて美津子はニンマリと笑い、光男に問うた。

「お母さんは持戻を免除するっていってたかしら?」
「いや、母さんは何もいっていなかった―――」

 光男はうなだれた。母サヨはしっかりした女性だったが、自分の死後、遺産分割のことまで考えてお金を出してくれたのではなかった。
間髪を入れず、達郎が一枚の書類をテーブルの上に滑らせた。

「一応、出させてもらったよ」

不動産の鑑定書だった。一同息をのんだ。七千九百万円。これがたった五十坪足らずの土地についた値段だ。これに対して光男が美津子と達郎に提示した土地以外の財産の預貯金、生命保険をすべて合わせても五百万円に満たない。

「土地は今、高騰している。この土地を光男が相続して代償金も払わないというのならば遺留分減殺請求のための法的な手段を考えるつもりだ」

光男は押し黙るしかなかった。その時、光男の携帯が鳴った。隣に住む自治会長からだ。



≪第9話に続く≫




【登場人物】
繁田さよ(故人)・・・達郎達の実母。和裁士として70まで現役だったが、認知症を発病してから亡くなるまでグループホームで暮らす。
繁田達郎(繁田家の長男)・・・繁田家の長男だが、東京で外資系証券会社に勤務し、華やかな生活を送っている。多忙のあまり最近は盆や正月にも顔を出していなかった。
繁田恭子(達郎の妻)・・・元客室乗務員。美人だがプライドが高く、義母さよに料理の味付けを注意されてから繁田家にはまったく顔を出さなくなった。
西岡美津子(繁田家の長女)・・・裕福な家へ嫁いだが、義理の家との折り合いが悪く、度重なる夫の浮気に耐えかねて離婚。母思いの一面も見せるが、大変な時は何かと都合をつけていなくなる、調子のいい長女。
繁田光男(繁田家の次男)・・・大手メーカーに勤める。兄の昭三とは正反対の、堅実で性格。
繁田孝子(光男の妻)・・・もともとは明るい性格だったが、厳格な義父と暮らすうち、うつ病を発病。現在は普通の生活を送っているがやせ細り五十代とは思えぬ容姿になってしまった。






 


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