父のこと

2012/8/16  落陽 さん

落陽
父が肺炎で緊急入院した。医者が「重篤です。危篤時に延命治療を施しますか?」と聞く。延命治療は要らないが、出来るだけの事をするまでと家族が交代で二十四時間付き添うことに決め、実家に泊まり込んだ私は、母と葬式の相談を始めた。

病院から戻り、朝食を済ませて散歩に出る。徹夜明けで体がだるい。畑がまばらに残る住宅地を歩いていたら、挨拶がふと頭にうかんだ。「父は大正十二年、神楽坂の商家に四男として生まれました」「役所に長く勤め、引退後は悠々と余生を送っておりました」

説明しにくい人だなと思った。母だったら「主婦の鑑」とか持ち上げれば、化けて出ることはあるまいが、父はどこか茫洋としている。
「日本株式会社のために」が口癖で、幼い頃はたまにしか顔を見られなかった。出世欲は余り感じられないなど、坊ちゃん育ちでおっとりしているが、我慢強く、愚痴を言わず、品もある。その辺りが母性本能をくすぐるのか、女性に好かれるのだが、淡々としていて女道楽に走ることはなかったらしい。

怒ると物凄く怖いが、中学に入学してからは説教された覚えがない。普段は物静かで、嬉しそうにしたのは子供の進学や就職が決まった時とか、孫が生まれた時くらい。好きなものは長野の山荘、野球、相撲、そして、ゆっくり散歩をして新聞を読む静かな生活。

気の利いた言葉を贈ってやりたいが、困ったな・・・。
四つ角を曲がり、病院が遠くに見えた時、やはり普通の挨拶でいいのだと思い直した。
世の中には、何十億もの平凡な人々が苦労したり泣いたり笑ったりしながら懸命に生きていて、いつか歳を取って死んでいく。あそこに居る父も、人間としての義務を立派に果たした人なのだ。それで充分じゃないか。

・・・あれから十年近く経った。父の気力が病気に打ち克ち、葬式は一旦延期され、四年前に天寿を全うした。晩年は陽だまりでまどろむことが多くなった父。いったい、どんな夢を見ていたのだろうか。

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