銭湯

2012/3/22  かぐや姫 さん

神田川カミさんが今年1月に60歳になり、住まいのある区役所に申請、登録して無料で銭湯が利用できる「ふれあい入浴証」を入手した。黄色のハガキサイズで正面に「ゆ」と黒字で書いてある。窓口は区福祉部高齢者サービス課いきがい係。健康増進と世代を超えた交流、ふれあいを図るのが目的だ。見開きになっていて「この入浴証はご本人のみが利用できます」とあり、月別にシールが4枚貼ってある。つまり、月に4回、区内にある銭湯ならどこでも使えるというわけだ。この入浴証は区内在住の60歳以上が対象。もちろん、この中には銭湯嫌いの人もいるだろうし、嫌いではないが自宅から銭湯までの距離、体調、仕事の都合などから二の足を踏む人もいるので、対象者全員が申請するわけではない。

だが、カミさんは自他ともに認める銭湯大好き人間である。だから、60歳になる日を待ち望むようにしていたし、送られてきた入浴証を手に「これだよ、これ、これ」といってとても嬉しそうだった。曜日は決めていないが週に1回、律儀に銭湯通いをしている。暖簾が掛かる午後4時を目掛けて行くことも珍しくない。まさに、一番風呂である。この時間帯の湯はまだ馴染んでいないせいか、尖っていてちくちくと痛いはずだが、「これが、また、いいのよね」と銭湯に関してはなぜか寛容である。

自宅から最寄りの銭湯までは徒歩でおよそ20分。少し距離があるので自転車で出掛けていく。着替えを詰めたバックを肩からぶら下げて帰ってくると決まって「やっぱり、うちのお風呂と違って気持ちがいいわ」という。春風にでも当たってきたかのように表情が穏やかになって、ほんのりと朱に染まった頬には小さな幸せが貼りついている。

「きょうも○○さんと会っちゃった」。銭湯通いを始めて出来た友達である。裸の付き合いとはよくいったものでこのほかに紐帯を深めている友人がもうひとりいるらしい。どちらもカミさんより年上だが、同じ「入浴証同士」いうこともあってか、お互い、あまり遠慮はいらないみたいで世間話にも弾みがつく。「ねえ、ねえ、今度、一緒に行こうよ」。カミさんが陽気に誘ってくる。

私にとって銭湯はかぐや姫の名曲『神田川』そのものである。「貴方はもう忘れたかしら・・・」なのだ。学生時代、生活費を稼ぐために夜遅くまでアルバイトをしていたので銭湯には終了間際に駆け込んだ。店主もこちらの事情を分かってくれ、零時を過ぎても嫌な顔ひとつみせなかった。いま思うと、あの頃は貧しかったけれど、ちっとも苦には感じなかった。『神田川』ではないけれど「なにも怖くなかった」のである。

ぼんやりした不安につきまとわれ、絶望の淵に立たされたときもあったけれど、どこかに希望があった。なんとかなるだろう。そんな思いで先を見ていた。若いということは素晴らしいことだと思う。さすがにこの年齢になると、ときめきはなくなってきている。それだけに、もう一度、青春をやってみてもいい。カミさんと『神田川』の世界を体感するのだ。ひょっとしたら銭湯に妖精が棲んでいるかも知れない。

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