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相続連続小説「あいつづく」 【第1話】

2016/1/15 

相続連続小説「あいつづく」

夏子ヘミング

【第1話】

繁田さよは世田谷区内にある老人ホームで94年間の人生の幕を閉じた。眠るような静かな最後だった。さよの葬式もささやかながら無事終わった。さよの霊前に祖師谷の実家に同居する次男の光男と妻の孝子、白金台に住む長男の達郎と妻の恭子、名古屋にお嫁に行った長女の美津子だけになったところで、喪主を勤めた光男が切り出した。

「祖師谷の実家だが、ずいぶん古い家だ。母さんに何度か建替えの話をしたけど、父さんが汗水たらして買った家だからって断固拒否した。四十九日が過ぎたら家を建て替えようと思う。現状、土地も古い家も母さんの名義になっているから、俺の名義に変更したい。
それで、相続人である兄さんと美津子の承諾が必要になる。土地以外の貯金や生命保険は多少分けられると思う」

「遺言書はないのか?なければ、財産は相続人全員で按分するのが基本だろう。祖師谷の土地とわずかな貯金では桁が違うじゃないか」

長男のメンツからか、威張ったように達郎が異議を唱える。

「父さんが寝たきりになっても、母さんがハルツイマーになっても、全然顔を出さなかったくせによくそんな大きな顔が出来るな」

カッとなって光男が大きな声でいった。達郎の妻の恭子の顔色がサッと変わった。

「でも、結局母さんを老人ホームに入れたじゃない」

これまた何もしなかったが自分の親だという顔をして美津子が口を挟む。

光男はためらいがちに妻の孝子を見た。蒼白の孝子はうつむいて小刻みに手が震えている。光男は腹から煮えたぎる怒りを抑えながら、膝の上で拳を強く握り、しぼり出すようにいった。

「孝子は寝たきりになって暴れる父さんの面倒を見ているうちに統合失調症――うつ病になった。今も通院している。とても認知症の母さんを任せられるような状態ではなかったんだ」

光男の言葉に驚いた美津子と達郎が孝子をまじまじと見た。好奇の視線の先の孝子の細い身体はますます細く見え、光男はいたたまれなくなりながら、続けた。

「母さんに遺言はなかった。でも、認知症になる前に祖師谷の角田という司法書士の先生の相続のセミナーに通っていたみたいなんだ」

「ともかく、その司法書士の先生のところへ行って話を聞いてこようと思う」

達郎も美津子も何か言いたげな顔をしていたが、黙って頷いた。

 ≪第2話に続く≫


【登場人物】
繁田さよ(故人)・・・達郎達の実母。和裁士として70まで現役だったが、認知症を発病してから亡くなるまでグループホームで暮らす。
繁田達郎(繁田家の長男)・・・繁田家の長男だが、東京で外資系証券会社に勤務し、華やかな生活を送っている。多忙のあまり最近は盆や正月にも顔を出していなかった。
繁田恭子(達郎の妻)・・・元客室乗務員。美人だがプライドが高く、義母さよに料理の味付けを注意されてから繁田家にはまったく顔を出さなくなった。
西岡美津子(繁田家の長女)・・・裕福な家へ嫁いだが、義理の家との折り合いが悪く、度重なる夫の浮気に耐えかねて離婚。母思いの一面も見せるが、大変な時は何かと都合をつけていなくなる、調子のいい長女。
繁田光男(繁田家の次男)・・・大手メーカーに勤める。兄の昭三とは正反対の、堅実で性格。
繁田孝子(光男の妻)・・・もともとは明るい性格だったが、厳格な義父と暮らすうち、うつ病を発病。現在は普通の生活を送っているがやせ細り五十代とは思えぬ容姿になってしまった。


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