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首都圏の住宅が供給過剰で「沈みゆく賃貸市場」? 一方で愛知県の空室率も高止まり状態 この事実をどの様に見ればよいでしょうか?

2019/11/14 

不動産評価Webサイト「TAS-MAP」を運営するタスが、「沈みゆく首都圏の賃貸住宅市場」というレポートを公開しています。 このレポートでは、バブル期、ミニバブル期、2014年~2018年にかけての賃貸住宅の大量供給により、首都圏の多くの地域の賃貸住宅市場は、「貸し手市場」から「借り手市場」に移行しているとレポートする一方で、愛知県や静岡県における高い空室率をも併せてレポートしています。

https://corporate.tas-japan.com/_assets/wp-content/uploads/2019/10/15b869e46f1798d41a293bd65d6f170e.pdf

 どの様に考えるべきかを定年生活にコラムを寄稿いただいた200万円から始める不動産投資家さんに分析をお願いしました。なお、内容等の責任は定年生活編集部に帰属します。

東京都の供給過多は懸念されていたこと・・・

 分析:株式会社タスのレポートによると、東京都全般の空室率TVI(※)が13.06.23区が12.88で郊外(東京都下)が14.21ですから東京都下の空室率が高くなっている傾向になります。注目したいのは、東京都下の空室率が高いことが足かせの様に見えますが、このレポートですと、2018年10月の同じエリアの空室率TVIが17.71であったことから随分とその数値が下がっていることが読み取れます。
 むしろこのレポートでも指摘されているように「若年層を 中心とした人口の都心回帰も進んでいる」にも関わらず、東京23区の空室率TVIが、1年前と同じ数値ということは、やはり東京23区内の物件供給が如何に過多であるかを示すものといえるでしょう。この点は、オリンピック特需ともいうべき、新築ラッシュからも明らかかと思います。

 郊外の場合には、東京都中心部の家賃水準では支払えない方が充分に対象になる一方、その割を食うのは神奈川県や埼玉県エリアかと思われます。とくに神奈川県の場合には、数値が確実に上昇を続けているので、市場が痛んでいる可能性が高いでしょう。なお、千葉県の場合には、東京メトロ・千代田線と直通運転する常磐線各駅停車があるので、このエリア(我孫子辺りまで)は安定していると思われます。その点も神奈川県の空室率が高い状態が示唆していると思われます。

空室率が高い愛知県

 このレポートでは、大阪府、京都府、愛知県、兵庫県、静岡県、福岡県のレポートも併せて報告されています。特に愛知県は、空室率TVIが14.82と非常に高くなっています。また募集期間も平均で6.61か月と非常に長引く傾向にあるようです。

 私自身、名古屋市に物件を複数、所有していた際に実感したことですが、室内設備によって非常に苦戦します。特にバブル期に乱立した3点ユニットの物件が非常に多く、こうした物件は非常に苦戦するといった説明を受けたことがあります。

 また東京同様、愛知県特に名古屋市内は物件の供給が過剰なようです。特に名古屋市リニア新幹線の開業を見越して多くの開発が進んでいるので、需給のミスマッチについては注視したいと思います。

空室率が下がっている京都市と福岡市

 このレポートでは、京都府と福岡県の空室率VTIが下がっていることが分かります。私自身、この2府県ともに物件を所有していますので分かります。京都府は厳しい建しく規制があるため、なかなか物件の供給を出来ないエリアです。東京都と同様、インバウンドに沸くエリアですが、民泊市場は非常に供給過多ですが、一般住宅についてはエリアによっては、充分に「貸し手市場」のエリアの様に思います。

 京都市は家賃が九州一の都市・福岡市と同じようなところがあり、極端に家賃が高い物件はかえって敬遠される傾向があります。ローンを引けば、自己所有の家が買えるからです。

 その、福岡県福岡市は、今後もしばらく、人口が増加する稀有なエリアです。さらには2005年頃に1度、物件の供給が止まったエリアでもあります。福岡市内は、物件が立ち尽くしたからです。その後、新規供給はスタートしていますが、人口の流入も続いているので未だに「貸し手市場」のエリアと「借り手市場」のエリアが混在しているイメージです。

 福岡市はそもそも東京ほど、家賃が高くなく、単身者であれば5万円以上は相当な高級賃貸になると思います。福岡市は賃料が安ければ設備を我慢するという方も少なくないので、この点は京都市と似ているように思われます。

 この様に見ていくと都内だから不動産投資に最適と大括りで判断するのは早計なように思います。かねがね申し上げていることですが、日本はこれから急激な人口減少の国に突入します。人口減少というのは裏を返せば、不動産賃貸借の客が減るという時代。
 一方で、お客が減らないエリアがあります。それは物件の供給と需要がマッチングしているエリア(バランスが取れているエリア)です。

 この様にしてみていくと「東京都内」だから人口が多そうだから安心とか、地方は人口減少しているから危ないといった大雑把な分析は非常に危険であるといえるでしょう。

※用語説明
空室率TVI・・・タスが開発した賃貸住宅の空室の指標です。 空室率TVIは、民間住宅情報会社に公開された情報を空室のサンプリング、募集建物の総戸数をストックの サンプリングとして下式で算出を行います。 なお、募集建物の総戸数は、①募集建物を階層別に分類、②国勢調査、住宅土地統計調査を用いて階層別の都 道府県毎の平均戸数を算出し、両者を乗じることにより算出しています。
TVI = 空室のサンプリング ÷ ストックのサンプリング  
    =∑募集戸数 ÷ ∑募集建物の総戸数

コラム執筆者
200万円から始める不動産投資家

経歴
1978年東京都出身。
一等商業ビル、別荘地などの経験を経て、2015年から個人名義の不動産投資をスタート。名古屋市や福岡市を中心に比較的有力な地方都市を対象に、1回の取引にあたっての総額を200万円以内に収める手法を開発。現在は、京都市や熊本市なども対象としている。投資物件はこれまで購入時より高く売却できたことはもちろんのこと、購入した物件は賃料の上昇など、収益力の向上に繋がる物件が多く、物件を峻別することに評価が高い。