定年生活.com トップ» 学ぶ » 憲法ではコロナウイルス蔓延や大規模災害などに対応する緊急事態条項は整備されていないの?【補訂版】

憲法ではコロナウイルス蔓延や大規模災害などに対応する緊急事態条項は整備されていないの?【補訂版】

2021/1/8 

新型コロナウイルスをめぐって日本では2度目の内閣総理大臣による「緊急事態宣言」が2021年1月8日に発出されました。この緊急事態宣言は、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて政府対策本部長である首相が出せる宣言。専門家の意見を基に、①国民の生命や健康に著しく重大な被害を与える恐れ②全国的かつ急速なまん延により国民生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れ――の2要件を満たすかを判断します。

※参照条文
新型インフルエンザ等対策特別措置法
(新型インフルエンザ等緊急事態宣言等)
第三十二条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第五項及び第三十四条第一項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。
一 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき期間
二 新型インフルエンザ等緊急事態措置(第四十六条の規定による措置を除く。)を実施すべき区域
三 新型インフルエンザ等緊急事態の概要

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=424AC0000000031
(上記リンクより、政府からの新型インフルエンザ等対策特別措置法の全条文をご覧いただけます)

 ところで、個別の法律ではなく、憲法ではこのような緊急事態についてはどの様な定めがあるのでしょうか?あるいはまったく定めがないのでしょうか?

憲法の保障

 憲法はわが国の最高法規ですが、ともすれば法律や違憲的な運用によって憲法が脅かされるケースが起きます。最近では集団的自衛権の限定行使を認める平和安全法制の際にも活発に議論がされました。
 この様に憲法より下位にある法律などによって憲法の崩壊を招かない様に事前に防止し、事後に是正をする措置を憲法保障と呼ばれています。

憲法保障には2種類ある

 憲法保障には憲法自身に定められている保障制度と憲法には定められていないけれども超法規的な根拠によって認められると考えられる制度があるとされています。前者の例は憲法内に規定があります。憲法が最高法規である宣言(憲法98条)、公務員に対する憲法尊重擁護の義務付け(99条)、権力分立制の採用(41条・65条・76条)のほか、事後的救済としての違憲審査制(憲法81条)があるとされています。

 そして後者の例として抵抗権や国家緊急権が挙げられます。大規模災害や戦争、伝染病の蔓延といった事態では国家緊急権の有無が問題となります。

国家緊急権とは・・・

 国家緊急権とは、戦争・内乱・恐慌・大規模な災害など、平時の統治機構では対処できない非常事態において国家の存立を維持するために、国家権力が立憲的な憲法秩序を一時的にせよ停止し、国家検量への権力の集中により、危機を乗り切ろうとするものであり場合によっては立憲主義を破壊する恐れがあります。

 そのため、19世紀から20世紀にかけての西欧諸国では非常事態に対する措置をとる例外的な権力を実定化し、その行使の要件をあらかじめ決めておく憲法も現れるようになりました。それには、①緊急権発動の条件・手続・効果などを決めておく方式。②大綱だけを決めて、国家機関に包括的な権限を授権する方式です。

 前者の代表例が、フランス共和国憲法第16条〔非常事態権限〕 です。

1 共和国の制度、国の独立、領土の保全又は国際的取極めの履行が重大かつ切迫した脅威にさらされ、かつ、憲法上の公権力の正常な運営が妨げられた場合には、共和国大統領は、首相、両議院議長及び憲法院に公式に諮問した後に、状況により必要とされる措置をとる。
2 共和国大統領は、教書を発してこの措置を国民に通知する。
3 この措置は、憲法上の公権力機関にその任務を果たすための手段を最短期間のうちに確保させるという意向に基づくものでなければならない。憲法院は、それに関して諮問を受ける。
4 〔この場合に〕国会は、当然に集会する。
5 国民議会は、非常事態権限の行使中に解散することができない。
6 非常事態権限の行使から30日後に、国民議会議長、元老院議長、60人の国民議会議員又は60人の元老院議員は、第1項に定める要件が依然として備わっているか否かの審査のために、憲法院に付託することができる。憲法院は、可及的速やかに公的な意見により裁定する。憲法院は、非常事態権限の行使から60日後はいつでも、当然にこの審査を行い、及び同一の要件により裁定する。

日本の憲法では?

 日本では、明治憲法の時代に、8条の緊急命令、14条の戒厳宣言、31条の非常大権などの規定がありましたが、日本国憲法ではこうした規定は置かれていません。このため、あくまで法律を根拠に個人の私権に十分に配慮した内容の法規制しかできないことになるのです。

【参照条文】
大日本帝国憲法の規定は以下の通り。

第8条天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス
2 此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ

第14条天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
2 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

第31条本章ニ掲ケタル条規ハ戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テ天皇大権ノ施行ヲ妨クルコトナシ

(文責:定年生活編集部)
参考文献:芦部信喜『憲法』(岩波書店)

本記事は2020年4月8日に公開された記事を加筆修正しています。
 



定年生活ではLINEのお友達を募集しています☆以下のQRコードからお友達登録をしていただきますと、LINEだけでのお役立ち情報をお届けします。
定年生活ではLINEのお友達を募集しています