1973年のプロ野球ニュース セ・リーグ編 史上空前の巨人9連覇に屈した阪神のエース・江夏豊の4627球
2020/6/7前人未到の巨人9連覇、西鉄ライオンズと東映フライヤーズの身売り、パ・リーグの2シーズン制の導入、そして東映の跡を継いだ日拓ホームフライヤーズのロッテオリオンズとの合併騒動など、プロ野球史上の中でも多くのニュースがあった1973年。
今回はそんな1973年のプロ野球をセントラルリーグとパシフィックリーグ編とに分けてお伝えする。今回はセ・リーグ編から・・・。今回は巨人の9連覇に大きく立ちはだかり、そして屈した阪神のエース・江夏豊の熱闘の軌跡を追ってみたい。9連覇は風前の灯火だった
1973年のセ・リーグは中日が首位で折り返す。8連覇を達成していた巨人は4位をウロウロ。前年26勝を挙げたエース・堀内恒夫は精彩を欠き、長嶋茂雄には衰えが見え始めた。そんなセリーグは1位から6位までが3ゲーム差という空前の団子状態だった。そこから大洋とヤクルトが脱落。8月5日段階で首位は中日、2位阪神、3位は広島。巨人は38勝40敗の4位で首位とは5.5ゲーム差。8月3日からの甲子園球場での阪神3連戦は阪神が連勝。5日も巨人が敗れれば、事実上の終戦といわれていた。
8月5日の試合は巨人が新浦寿夫、阪神の先発投手は山本和行だった。3回表、山本和行はワンアウトランナー1塁・2塁のピンチを向抱えると早くも江夏が救援に。このピンチを抑えるとその裏の阪神の攻撃は江夏から。
江夏がライト前ヒットで出塁。その後、フォア―ボールなどで満塁になると5番遠井がレフト前ヒットで2点先制。巨人は6回に高田繁がホームランで2対1.そのまま江夏がロングリリーフで9回を迎える。スポーツ紙は阪神の2対1の勝利を予想し、巨人の9連覇は絶望と打とうとしていた。
9回、高田がヒットで出塁。続く4番・王は三振。5番長嶋はフォアボールでワンアウト1塁・2塁。6番末次はセカンドゴロ。これでダブルプレーでゲームセット。誰もがそう思った。次の瞬間、目を疑うシーンが起きた・・・。二塁手・野田征稔がボールを握りしめて長嶋の背中を追っている…。長嶋はアウトになったが、ツーアウト1塁・3塁。
次の黒江がセンターにフライを打った。これでゲームセット。今度こそそう思った。その瞬間、信じられない光景が起きる。なぜかセンター池田が転倒している。ボールはそのまま外野に。1塁ランナー末次もホームインし、3対2.今でも江夏は「5つアウトを取った気分」といっている。98球のロングリリーフは報われず、3対2で巨人が奇跡的な逆転勝利。川上監督はゲーム後、呟いた
「首の皮、一枚つながった・・・」ノーヒットノーラン達成は江夏のサヨナラホームランで達成
悪夢のような敗戦がありながらも阪神は中日とのデッドヒートになる。8月25日、江夏は広島に完封。これで17勝目。中2日の28日には、首位・中日戦に上田をリリーフ。そして中1日の8月30日には中日との1戦に中1日で先発。中日のエース・松本幸行(ゆきつら)との延長11回の投げ合いを制し、最後は江夏自らのサヨナラホームラン。ここに142球を費やしたが、ノーヒットノーランを達成した。「野球は一人でも勝てる」という言葉すら生まれた。これで18勝目。
(当時の様子を伝える動画です)10月11日は壮絶な打ち合いに・・・
8月31日、一度は死んだはずの巨人がついに首位に立つ。そこから東西の老舗球団のデッドヒートが始まる。10月10日、11日と後楽園球場の巨人との2連戦。10日は阪神が上田二朗、巨人は高橋一三が先発。巨人が上田を打ち込み、5対1とリード。
ところが、後藤和昭のホームランで猛虎打線が目を覚ますと4番・田淵幸一が倉田誠から逆転満塁―ホームラン。6対5となると、6回から江夏が緊急登板。4イニングを完ぺきに抑え、23勝目。巨人に逆転勝利を収めるとクルッと阪神が首位に。3時間20分の激闘の末、巨人の9連覇の前に阪神が大きく立ち妨かるという状況に世相は騒然となる。しかし、巨人を倒して9年ぶりのリーグ優勝は既に23勝を挙げている江夏の神がかり的な力投があって初めて実現するのだが、この日も救援で52球を費やした江夏の休養は十分であるかなど、誰も気づかない。そして10月11日、巨人は中4日の堀内恒夫に対し、阪神はついに禁じ手ともいえる江夏を連投させることにした!
先に崩れたのは、堀内だった。今シーズンは精彩を欠く堀内は初回に4失点。38球で降板した。さらに2回には長嶋茂雄が打球をハンブルして右手小指を骨折。7対0となる。対する江夏はスイスイ。「終わった」
誰も思った。この試合が終わると阪神は残り4試合。どこで優勝するか?
対する巨人のベンチでは作戦コーチの牧野茂が「なるようにしかならん。みんなジタバタするんじゃない。準備だけをしろ」と控え野手にハッパをかけた4回裏、高田繁がフォアボールを選ぶ。3番・王が二塁打を放つ。そして怪我をして退場した長嶋の代役、富田勝がレフトへ3ラン。7対3になる。後続も続くと、阪神・金田監督は早くも江夏を降板させる。ネット裏で解説をしていた元巨人監督の水原茂は
「阪神の江夏交代は早すぎる。なぜもっとエースを信頼しないのか」
と苦言を呈した。巨人ベンチは「江夏を引きずりおろした」と息が吹き替える。
6回には黒江のホームランなどで7対5.ベンチでは王貞治が「もうなんとでもなるぞ」と興奮する。さらに連打でさきほど、牧野コーチの一喝で準備をしていた萩原康弘が代打に指名される。その日の準備をする背中の姿で起用を決めるという独特の川上哲学。これが当たり、萩原は逆転3ラン。もうどんちゃん騒ぎでヘルメットもどこかに飛んでいる。さらに高田もホームランをうち、9対7.しかし優勝の女神はまたも悪戯をする。7回には阪神・藤田平のホームラン、巨人・王のエラーもあり9対9.8回表には阪神・望月のタイムリーで10対9と阪神が再逆転。しかしこれでも終わらない。8回裏には巨人・柳田俊郎が同点ホームラン。
10対10.両チーム38人の選手が入り乱れる大乱戦は引き分けに終わった。巨人は残り3試合・阪神は残り4試合・・・
後楽園の試合が終わり、巨人は残り3試合。阪神は残り4試合。阪神が全部勝つと阪神の勝率は.545となり巨人を上回る。しかも阪神は最下位・広島との試合が2試合。さらには巨人は14日の大洋戦、16日のヤクルト戦にも敗戦。
一方の阪神は最下位・広島相手に14日は敗れるも15日には中3日で江夏が登板。1番・山本浩二のホームランに抑え133球の完投勝利、これで24勝目。これでマジックが1になった。ここで田淵選手のイラスト付きの日本シリーズチケットが刷られる。ただ、パ・リーグはプレーオフガあるので相手が阪急か南海かは分からない。そして10月20日。中日球場での中日最終戦。既に3位が確定した中日は消化試合。相手は星野仙一。ここでミステリーが起きる。阪神は22勝を挙げた中日キラーの上田ではなく、なぜか中4日で江夏が先発。この起用は多くの謎を生んだ。結果は江夏は6回3失点で降板。打倒巨人の星野仙一は生涯で最も嬉しくない勝利と吐き捨てた。この92球が江夏の今シーズンの投球だった。
22日の甲子園での巨人戦。江夏の出番はなく、9対0で敗戦。巨人の9連覇が決まった。
江夏豊。24勝13敗。307イニングを投げ、4627球を投じるも優勝にはあと1勝届かなかった。このシーズン以降、下り坂が急こう配になる江夏にとっては最後の20勝でもあった・・・。本文中に紹介した試合結果
1973年8月5日 阪神―巨人18回戦 於:甲子園球場
巨 人 000 001 002 3
阪 神 002 000 000 2
勝利投手:倉田(8勝6敗)
敗戦投手:江夏(14勝9敗)1973年8月31日 阪神―中日20回戦 於:甲子園球場
中 日 000 000 000 00 0
阪 神 000 000 000 01 1
勝利投手:江夏(18勝10敗)
敗戦投手:松本(9勝8敗)1973年10月10日 阪神―巨人24回戦 於:後楽園球場
阪 神 010 005 000 6
巨 人 201 020 000 5
勝利投手:江夏(23勝12敗)
敗戦投手:倉田(18勝8敗)1973年10月11日 阪神-巨人25回戦 お:後楽園球場
阪 神 430 000 210 10
巨 人 000 405 010 101973年10月15日 阪神―広島26回戦 於:広島市民球場
阪 神 111 000 010 4
広 島 001 000 000 1
勝利投手:江夏(24勝12敗)
敗戦投手:金城(10勝6敗)1973年10月20日 阪神―中日26回戦 於:中日球場
阪 神 100 100 000 2
中 日 002 100 01× 4
勝利投手:星野(16勝11敗)
敗戦投手:江夏(24勝13敗)(文責:定年生活編集部)
参考文献:『熱闘!プロ野球30番勝負』(1990 文芸春秋)
『熱闘!プロ野球名勝負』(2002 ベースボールマガジン社)
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