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自衛隊の海外派兵をめぐる議論とイラク復興支援と憲法9条

2020/6/12 

当初、自衛隊の任務は国土を防衛することに限定されているので海外出動は認められない。これが従来、日本政府が貫いてきた態度であった。従来は自衛隊が国連軍に参加できるかが海外派兵における論点であった。

 国連憲章43条(※)に基づく正規の国連軍は戦闘・武力行使を目的としているので自衛隊の参加は許されないとされる。また武力行使を伴わない国連平和維持活動についても武力行使とは無縁とは言い切れないというスタンスをとってきた。が、こうした政府の姿勢に海外から批判が浴びせられる契機が来た。湾岸戦争である。

金で済ますのか・・・

 平和維持活動についても政府は参加は憲法上、許されないとしつつも自衛隊法上、このような任務は与えられていあにとする立場をとってきた。その結果、諸外国ら自衛隊の派遣要請があったとしても経済的援助に留めるという結果になった。

 ところがこうした日本政府の姿勢に海外から批判を浴びることが起きる。1990年に起きた湾岸戦争である。イラクのサダム・フセイン大統領が1990年8月2日午前2時(現地時間)、戦車350両を中心とする共和国防衛隊機甲師団10万人はクウェート侵攻を開始。
 ここに湾岸戦争が始まった。

 この湾岸戦争でも、日本政府は8月30日に多国籍軍への10億ドルの資金協力を決定、9月14日にも10億ドルの追加資金協力と紛争周辺3か国への20億ドルの経済援助を、さらに開戦後の1月24日に多国籍軍へ90億ドルの追加資金協力を決定し、多国籍軍に対しては計130億ドル、さらに、為替相場の変動により目減りがあったとして5億ドルを追加する資金援助を行ったが、人的貢献が無かったとして、アメリカを中心とした参戦国から金だけ出す姿勢を非難された。

 そこで、1992年、宮沢内閣時に「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」いわゆるPOK法が成立した。PKO派遣には2012年現在、以下の5原則が成立していることが必要である。

1:紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
2:当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
3:当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
4:上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
5:武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。

PKOからイラク戦争へ

 2001年に起きたアメリカ・ニューヨーク貿易センタービルに対するテロ攻撃を契機として、2001年にはアフガニスタンのタリバンに対する攻撃、2003年にはイラク戦争が始まった。日本政府はこれに対する対応としてアフガンに対してはテロ対策特別措置法に基づく、自衛隊インド洋派遣(日本の海上自衛隊が海上阻止行動に参加し、2010年までインド洋で給油活動)を行った。

 さらには「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」に基づく自衛隊の派遣では「戦闘地域」と「非戦闘地域」をめぐる当時の小泉純一郎首相と野党議員との質疑は話題になった。

 こうした経緯から政府が従来、説明してきた自衛隊の海外派兵の許容限度を超えて集団的自衛権の範囲に踏み込んでいるのではないかという批判が強まった。事実、2008年4月17日の名古屋高等裁判所の判決で、傍論として、原告の複数の訴え共通の事実認定を当裁判所の判断として、航空自衛隊部隊が多国籍軍兵士をバグダッドに輸送している事に鑑み、“戦闘地域での活動”とし、「他国による武力行使と一体化した行動で、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ず、武力行使を禁じたイラク特措法に違反し、日本国憲法第9条に違反する活動を含んでいる」とする問題点を指摘するに至った。

 なお、イラク特措法は2009年7月に期限切れで失効、テロ特措法も2007年に期限切れで失効し、現在は新テロ特措法に衣替えしている。

 ※参考条文
国連憲章第43条〔特別協定〕
1 国際の平和及び安全の維持に貢献するため、すべての国際連合加盟国は、安全保障理事会の要請に基き且つ一つ又は二つ以上の特別協定に従って、国際の平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させることを約束する。この便益には、通過の権利が含まれる。
2 前記の協定は、兵力の数及び種類、その出動準備程度及び一般的配置並びに提供されるべき便益及び援助の性質を規定する。
3 前記の協定は、安全保障理事会の発議によって、なるべくすみやかに交渉する。この協定は、安全保障理事会と加盟国群との間に締結され、且つ、署名国によって各自の憲法上の手続に従って批准されなければならない。

(文責:定年生活編集部)



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