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敵基地攻撃能力と憲法9条~自衛権の範囲をめぐる古くて新しい問題

2020/8/15 

憲法9条をめぐる最新の議論として、配備計画を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策として敵基地攻撃能力の検討が進められている。ところで、そもそも敵基地攻撃能力とは?

敵基地攻撃能力はそもそも許されるのか?

 敵基地攻撃とは読んで字のごとく、相手国にある基地に対する攻撃の可否である。この議論は、実は古くから自衛権の範囲の問題として議論されてきた。政府は自衛権行使の地域的範囲はわが国の領域には限られず、自衛権行使に必要な限度での公海、公空に及ぶことが出来るとする(1964年3月9日 参議院予算委員会 林法制局長官)

 これはあくまでも自衛権の地域的範囲の「拡張」とも読めそうである。

 ところが、鳩山一郎内閣以来、今日に至るまで外国からの窮迫不正の侵害により、我が国の存亡の危機にある場合において、他に自衛の方法がない時には外国領土にある敵基地を攻撃することは法理的に自衛の範囲に含まれるとしてきた(1956年2月29日 衆議院内閣委員会 船田防衛庁長官発言)

 
(写真はイメージです)

つまり、敵基地攻撃に関して、憲法9条との兼ね合いで違憲、合憲の激しい論争は少なくとも今日までは起きていないといえる。

政府が目指す敵基地攻撃能力とは・・・

 政府が保有を目指す敵基地攻撃能力について、島嶼(とうしょ)防衛用に計画している長射程ミサイルなどで敵ミサイルや施設を攻撃する案を軸に検討していることが明らかになった。従来の敵基地攻撃能力は「我が国の存亡の危機にある場合において、他に自衛の方法がない時には外国領土にある敵基地を攻撃」するという内容であり、専守防衛とも内容的に一致できる部分があったといえるが、仮にそれを超える内容であったとすれば、我が国が維持してきた専守防衛というスタンスを大きく変容させる可能性を秘める。

 現在、河野太郎防衛相は敵基地攻撃能力について、(1)移動式ミサイル発射装置や地下基地の位置特定(2)敵レーダーや防空システム無力化による航空優勢確保(3)ミサイル発射基地の破壊(4)攻撃効果の評価-などで構成されると説明していた。これらは総体として「ストライク・パッケージ」と呼ばれる。

 ただ、移動式発射装置に搭載したミサイルの位置をリアルタイムで特定することは難しいとされる。ストライク・パッケージには戦闘機の大量な追加配備が必要で、敵レーダーを無力化するための電子攻撃機や対レーダー・ミサイルなどの装備取得には多額の予算を要する。

 これに対し、長射程ミサイルは比較的低コストで調達可能で、運用次第で期待する抑止効果が確保できる。敵基地攻撃能力の保有に慎重な公明党にとっても、すでに調達・研究が決まっている装備であれば受け入れやすいというが公明党はそもそも敵基地攻撃能力の保有に慎重である。

ミサイル防衛に穴が生じてはいけないというが・・・

 そもそも敵基地攻撃とは我が国が攻められていないのに攻撃をすることであり、攻めて来るものはたたくが、こちらが攻め込まないことで、相手に攻撃の口実を与えないとする専守防衛とは性質を異にする。
 裏を返せば、敵基地攻撃をすることで我が国への攻撃の口実を与えることにもなりかねない。

 さらに敵基地攻撃能力の保有は多くの予算が必要であり、そうした予算確保も理解を得る必要がある。
 またそれ以上に戦後75年堅持してきた専守防衛のスタンスを大きく変える内容をもはらむので、今後の議論について、注視していく必要がありそうだ。

(文責:定年生活編集部)
参考文献:芦部信喜『憲法学Ⅰ 憲法総論』(1992 有斐閣)

 



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