ミステリー作家の遺作を読んで
2012/12/10 宏美 さん
吉村達也、というミステリー作家をご存知だろうか。
2012年の5月に、還暦を迎えたばかりの歳で亡くなった方である。つまり、年金生活をしている私たちよりも年下だ。実は私も、数年前までは吉村達也という作家の名前すら知らなかった。そもそも推理小説を読む機会は少なかったし、読むとしても松本清張などの昔の作家か、西村京太郎、和久俊三といったあたりのベテラン作家の作品ぐらいなものだった。
吉村達也の作品を知ったのは、娘がきっかけだ。娘の大学の図書館には推理小説も豊富にあって、吉村達也の作品も置かれているらしく、娘がそれを借りてきたのを、私もついでに読ませてもらったというわけだ。
なるほど、松本清張のような文章の重厚さはないが、軽快で読みやすく、人の心理を面白いところから突いている作品が多く、なかなか面白かった。読み始めると一気に最後まで読めるような「読者のなじみ」をよく心得た作家なのだと思う。
そんな吉村氏の遺作となったのが、彼自身が病床で綴った闘病記である「ヒマラヤの風にのって」だ。こちらはミステリーでもなんでもなく、病院に行っていきなり末期ガンを宣告された吉村達也が、ぎりぎりまで自筆で、そして口述筆記で残したものがまとめられている。
目前と迫った死に対し、吉村氏が強い精神力を持って泰然自若と受け入れようとしながらも、やはり時折気持ちが揺れることがあったことが伝わってくる、そんな内容だったが、その中でも特に印象に残っているのが「ガンは怖くない」というのは大ウソだ、という意見であった。
ガンは治る病気だから怖くない、と近年では言われているが、それはあくまで初期の「治るガン」だけの話であって、「治らないガン」からは逃げている、というのだ。
私はこの意見を見た時、大いに反省した。
というのも、私は10年以上前に大腸ガンを患ったのだが、早期発見で今も再発なく元気に過ごせている。
だが、それをいいことに、友人がガンになってしまった時も「きっと大丈夫だ、今はガンは治る病気なんだから」と、たまたま自分が治るガンだったという経験だけで無責任な励ましを続けていたのである。
しかも友人のガンは私よりもずっと悪く、3年余りの闘病の末、帰らぬ人となった。
彼に対して、私は何と残酷な励ましをしてきたのだろうと、今更ながらに後悔した。吉村氏のこの意見を見てから、私は「自分の狭い世界だけでの経験談を偉そうに語るのはやめよう」と決意した。
これまで、「自分には経験がある」と自負してきたが、そんなものは世の中にあるいろんな事の中の、ごくごく一部にすぎないと気がついたのだ。私たちの世代は、ともすれば「自分は年長者だ、経験がある」という錯覚に陥りがちであるが、そうした面において謙虚な気持ちを持つことこそ、大切なのではないだろうか。
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