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鬼が笑う

2014/2/5  たずき さん

定年後の生活
「鬼は外ー」暗くなりかかったころ、隣の小学生サワちゃんの元気な声が聞こえた。
「あぁ今日は節分だったんだぁ」

昨年は、夫の初七日などで頭が空白だったが、今年は一周忌もすませ、独り暮らしにもなれてきたというのに。買い物にでも出れば、店頭で節分の商品が目につくのに。外出もままならない身,うかつにも忘れていた。

結婚以来、節分の夜は福茶を飲むのが習慣であった。子どもたちが独立してからは、わたしが、「鬼は外ー福は内ー」と声を張りあげた。わたしの足がだめになると、夫が豆撒きをした。

近ごろは、大人の豆撒きの声が聞こえなくなったが、わが家はしっかり続けていたし、夫がお茶の葉に福豆を入れて、「福茶をどうぞ」と習慣通り節分の夜を過した。

「お父さんに福茶を供えなかった」
私は心がいたみ、昔から続けてきた行事を途絶させたことを悔やんだ。

老いるということは、こういうことか。カレンダーにも節分は記されている。が毎日が日曜日。カレンダーを見る必要も感じない、だらしなさ。
それゆえ節分を忘れた。

ちなみに、わが家には各部屋にカレンダーが掛けられている。
お勝手、トイレ、たまにしか上がらない二階、それも納戸となり果てた部屋まで。何のことはない。娘が余ったカレンダーを、もったいないと思ってか? わが家の部屋に掛けまくる。というほど幾部屋もあるわけではないが。

縦横五十センチ、外国の風景写真の下に,日付の入ったビニール製の高価そうなのなど、見ることもなく日が過ぎ、月が変わってもそのまま。
娘が二階へ洗濯物を干しに行って、「先月のままだったよ」とはがしてくる。

下の部屋も同じ、娘の手でめくられるカレンダー。こんなありさまで、わが家のカレンダーは、役目を果せず、節分も見落とされてしまった。

立春。お炬燵から離れなくても、暦の上では春。「お父さん今朝はもう春だって、福茶もあげないでごめんね」と、つぶやきながら仏壇にお水を供え、お線香をあげる。
十時前娘が来て「はい福茶」と炬燵板の上に、鬼打豆の入った容器を置いた。

「おいおい、持って来るなら何で昨日持って来てくれないのー」
口には出さねど・・・。

「お父さん福茶遅れてごめんね」。夫に福茶を供えながら、声にならない「鬼は外ー福は内ー」。
「昔からの行事を途絶えさせてしまったが、来年は復活させよう」

おっと。来年のことを言うと鬼が笑う。もう、わたしは、おんとし八十二歳になったのだ。     



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